この近くのエリアにもともと住んでいて、土地勘があったため近隣での土地探しからお話しが進んでいき、有年さんがみつけたのが里山のふもとに面した敷地だった。
「奥にまとまった敷地がある形状の「旗竿地」であったものの、里山と隣接していて自然が豊かに感じられたのがいいなと思いました。それと予算の少なかった僕らにとっては金額的にも理想でした」と有年さん。
「一般的に「旗竿地」は価値が低いと言われるが、注文住宅を建てる場合、理解したうえでプランニングをすれば、問題はありません。」(DIP佐山さん)どう形にするかは建築家として腕の見せどころである。
岡田さんの家は一見狭小地に立つコンパクトな住宅に見えるが、実は延床面積は約60坪と広い。平屋と二階建ての建物を上手に組み合わせながら、1階にはリビングと和室、2階はご夫妻の寝室と子ども部屋を確保し、異なる形と異なる色で奥ゆき感を演出している。道路に面したピロティ箇所は駐車場(自転車置き場)と勝手口が直結、雨の日でも濡れないうえに、ドアを開けるとパントリーにつながっていると言う便利さだ。
建物は敷地の北側に寄せることでスペースを豊かに空け、2階にリビングを。
また、採光を確保するための高窓を配置。周辺の建物や木々や山などによる日影に左右されることなく、光と風が十分に感じられる住空間が実現した。
まず設計にあたってガケ条例をクリアする必要がありました。これは問題なかったですね。
ただもうひとつ大きな課題があって、光が入りにくい土地だったんです。それが設計する際の大きな問題になりました」とDIP佐山さん。
実際に暮らし始めたら、LDKへの採光をとれるかどうかは住み心地を左右する大切なポイントのひとつ。
太陽の光と風を取り込むためには、工夫を凝らさなければならない土地である。
そこで、2階リビングを提案。そのうえで、時間ごとに光と熱がどのように入るのか? 何度も何度も現地に赴いて計算したそうだ。
「リビングに配置した窓にちょうど朝の8時から9時に一番気持ちのいい日照が差し込むようになっています。しっかりとシミュレーションを行ったことで、冬であっても十分な日照が得られるよう施工させていただきました」(DIP佐山さん)
予算の関係ゆえに、約29坪ほどのコンパクトな家となった有年邸。プランニングでは全体のゾーニングと採光をどうするか。この2点をまずは考えたという。
「予算がないからといって、誰がやってもこの設計になる。そんな風にはしたくありませんでした。例えば、外壁はローコストな素材を使いながらも色違いのタイルを提案させていただきました。そうすることで外壁に個性を加え、視覚的に遊びのある印象を強めています」と話すDIP佐山さん。
また、建具のほとんどをオリジナルで製作。自然の素材感を活かしながら、無駄なくすっきりとした、シンプルで居心地のいい空間を実現した。
せっかく新築を建てるなら、家の雰囲気に合わせた建具を選びたいと思っている人は多いだろう。コストが高いのではと思いがちだが、スペースに合わせて建具を製作するので空間に一体感を出すことができ、実はリーズナブルに仕上がるケースも多い。
使い心地、住み心地の良さを追求した間取りを考えるのであれば、造作した建具を取り入れることで自由な間取りや内装が叶いやすくなるだろう。
造作の建具を随所に取り入れていった有年さん。唯一こだわったのが、階段下収納につながる外壁に備え付けられた扉だ。この扉はもともと蔵で使われていたものだったとかで、有年さんの親友が古物商をやっている関係で仕入れたものだ。
既製品では物足りない、思い入れのある品物を新居に利用したい……。長く暮らす家だからこそ、そんな思いを汲み取ってくれるのはありがたいものである。
予算や土地の広さといった条件はあるにしろ、設計住宅をつくるのに、「こんなことしたい」「あんなことしたい」という想いは尽きることはない。それは誰にでも平等にあり、その想いをプラスαの提案で答えていくのが設計住宅の醍醐味でもある。
DIP佐山さんいわく「どの物件のプランを考えるときも、光と風とプライバシーには気をつけています。これらのことは、誰もが矜恃できるものだと思っていて、工夫のしがいがありますね。土地や予算がある中で「どんな家をつくろう」か、お互いに会話を重ね、理想のライフスタイルを共有していくのは楽しいです」とのこと。
家は特別なものではなく、日々の生活に寄り添うもの。
予算内で理想を汲み取り、デザイン性の高いプランとなった有年邸。低予算であっても十分に家づくりは楽しめる。そんなことをこの家は教えてくれるのだ。
崖とデザインの家
栃木県宇都宮市
ご夫婦、お子様2人
8年
28.72坪 3LDK
木造2階建て
ドライブ・食べ歩き