DIP BLOGDIPブログ
光・風・景色を取り込む窓~窓のスタイルブック by DIP~
2024年02月26日
窓は、採光や換気などの機能に加えて、外観を印象づけたり、住まいの中から眺望を楽しむなど、意匠面でもさまざまな役割を果たします。
そこで今回は、窓のデザインのプロセスとポイントについて、DIP建築都市設計事務所代表の佐山利光氏にお話を伺いました。
1.まずは「光・風・プライバシー」に対する意識の共有から
窓の計画にあたり、DIPでは「光・風・プライバシー」の兼ね合いを大切にしています。
お施主様の要望に耳をかたむけ、
希望する住まいの明るさや、暮らしぶりについて、イメージを共有しながらの作業です。
1-1.「好きな光」と「光の取り入れ方」からはじめる
まずは、「好きな光」そして「自然光をどのように取り入れたいか」についてお話を聞きます。
「午前中のやわらかな光が好き」という人もいれば
「夕暮れ時の静かな光が好き」という人もいてさまざまですが、
まずはお施主さまの好きな「光」を取り入れられるようにメインの窓から、計画します。
風についても同じで
「湯上りにさわやかな風を感じながら飲むビールが最高」など、新居での暮らしのイメージを伺い、共有します。
1-2.住宅設計は「家族の物語を紡ぐ」ところから
窓のデザインに限った話ではありませんが、設計の最初の仕事は「家族の物語を紡ぐ」ことです。
お施主さまとやりとりしながら、まずは一緒になって、お施主様ご家族の物語を作るわけです。
その物語の舞台となる住まいを図面化し具現化するのが私たちの仕事で、その中に窓という要素も含まれています。
いきなり「窓」を配置することはありません。
まずは、ご家族の新しい物語にそって、敷地内の住まいの配置や、ざっくりとしたゾーニングを考え、窓の形や配置で、室内にどのような自然光が取り込めるのか、そしてどのような明るさになるかをシミュレーションします。
1-3.メインの窓の位置ぎめと高さ関係やスタイルを検討する
平面上のゾーニングで生活動線を考えたうえでメインの窓の位置を考え、それが固まってくると、今度はファサード(立面)で、図面を立ち上げ、立体的に考えます。
ファサードでも美しいか、品のある佇まいか。豪華に見せたいのか、シンプルに見せたいのかなど、まずはメインの窓から考えます。
1-4.「光と風の分布図」で窓の採光や風通りを検証する
次の段階では、ふたたび平面に戻り、ゾーニングに基づいて「光と風の分布図」を手書きで作ります。
「ここに窓を開けると、この辺りに光が入る」「こちらの窓からあちらの窓に、こんな具合に風が抜けて風が入る」ということがわかる図を気象庁のデータに基づいて作成します。
こうして「湯上がりには、窓を開けて、さわやかな風を感じながらビールを飲みたい」というお客様に合う窓が決まります。
窓に限った話ではありませんが「設計は物語を紡ぐ作業」です。
お施主さまとやりとりしながら、まずは一緒にお施主様ご家族の物語を作るわけですね。
その物語の舞台となる住まいを図面化してお施主様と確認して行くのが、私たちの仕事で、その中に窓という要素も含まれているのです。
さらに、お客様ひとりひとりのライフスタイルに合わせて、個室や水回り、玄関、階段、廊下などの小さい窓の計画も進めます。
平面上で小さい窓の配置がまとまると、ファサードに戻って、高さ関係などを調整して全体的なまとまり、全体的な統一感を調整します。
1-5.ゾーニング(平面)とファサード(立面)を行き来きしながら、窓をつくる
要するに、窓のデザインと言っても1回で決まるわけではなく、ゾーニング(平面)とファサード(立面)を行ったり来たりしながら、光と風の分布図をにらみ、お施主様が好きな光や風を取り入れる窓を検討するわけです。
1-6.レースのカーテンを閉めなくても暮らせる窓
「光・風・プライバシー」のプライバシーについては、大前提として「レースのカーテンが不要な窓」の工夫を心がけています。
都市部の住宅密集地であれば中庭を設けて、光を取り入れる窓を作ったり、水回りであればハイサイドの窓を作ったりします。
空色を見る中庭の家 エントランスホール
逆に、非常に恵まれたロケーションの土地で、森や公園に隣接している場合は、見せたい景色に向かって、窓をダイナミックにレイアウトする場合もあります。
Birdsong House NASU
Birdsong House NASUは、東京から那須に移住されたご夫妻の住まいで、DIPでは土地選びからお手伝いしました。約300坪の敷地があり、ご近所の視線を気にすることなく、ダイナミックな窓をあけて伸び伸びと暮らしていらっしゃいます。
1-7.心地よい明るさの基準は人によって違う
「とにかく明るい家が欲しい」「窓がたくさんある明るい家にしたい」
と相談にいらっしゃるお客様もたくさんいらっしゃいますが、
果たして、住まいは明るければ明るいほど快適でしょうか?
心地よい明るさの基準は人によって、さらにこれまで住んできた住居の状況によっても違います。
ほどよい明るさ、心地よい明るさについて、お施主様とDIPがイメージを共有するために、
DIPの完成見学会で、明るさと光の印象を実際の空間で体験してもらったり、時には美術館などに一緒に足を運び「お施主様にとっての心地よい明るさ」を共有することもあります。
1-8.ジェームズタレルの「光の館」と「陰翳礼讃」
閑話休題。
新潟県十日市町にある、ジェームズタレル氏の作品「光の館」は、谷崎潤一郎氏による名著陰翳礼讃をヒントにして生まれた建物です。
室内中央の屋根がスライド式にオープンになる仕掛けがあり、参観者は、時々刻々と変わる空からの光、光に照らし出される室内の陰影を味わいます。
光の館より
私は2017年に光の館を訪ねましたが、屋根を切り取ったような空からの光を眺めながら思い起こしたのは、東日本大震災の計画停電のときに、自分なりに工夫して、キャンドルなどで光を作り出した時のことです。
手作りの光は素朴で部屋全体を照らしだすことはできませんが、室内に光の溜まりが生まれて、心地よい明るさの濃淡が生まれます。
窓を考えることは、室内にどのような陰影をつくるかを考えることにつながります。
明る過ぎず暗過ぎず、住む人にとってほどよい明るさと陰影が生まれるように、また、お施主様とここちよい明るさについての共有ができるようにと日々こころがけています。
「窓の話と関係あるの?」と思われた方もいらっしゃるかと思いますが、窓から取り込む
光の質を考える際に、ヒントになるかと思います。窓から自然光の取り入れ方によって、室内にはさまざまな陰影がうまれるのですから。
2.Style Book of Window by DIP
DIPの施工例の中から、魅力的な窓をご紹介します。
2-1.借景窓__額縁に見立てた窓で、景色を切り取る
ピクチャーウィンドウともいう。公園隣接など、ロケーションに恵まれた立地で用いることが多い
●廊下を幻想的な空間に変える借景窓
ほの暗い廊下の端に壁いっぱいの借景窓を設けている。景色だけでなく、自然光のなだらかなグラデーションが楽しめます。ドラマチックで、歩いてみたくなる廊下。
●中禅寺湖を切り取る借景窓
森と湖の家 階段室 国定公園の中にある希少な立地にある住宅の借景窓。
●屋敷森を楽しむ窓
屋敷森の家 壁に対する窓の配置が美しく、室内の陰影が印象的な個室。
●ニッチ収納と組み合わせたアートな借景窓
遊び心をくすぐる家 下のニッチ収納とのバランスが絶妙。アートギャラリーのような空間に。
●崖の緑を楽しむ借景窓
●キッチンから田園風景を眺める借景窓
階段ホールの借景窓
duo house 階段室
2-2.壁一面の窓__住まいのメインの窓
非日常空間を楽しむ壁一面の窓。
●那須の邸宅 敷地約300坪、リビングからアプローチの長屋門が見渡せる
ツリーハウスに住んでいるような、森のなかに包み込まれる感覚
2-3.ワークスペースの窓
隣接する公園の枝垂桜が楽しめる位置に
妻のワークスペースをレイアウト。妻のお気に入りのピクチャーウィンドウになっている。
2-4.寝室の窓
2-5.和室の窓(地窓&高窓の組み合わせ)
地窓と高窓をつける
2-6.エントランスホールの窓
空と光でつながる家 玄関土間の窓 接客空間に
那須の邸宅 エントランスホール
2-7.階段室の窓
屋敷森の家 階段ホールと寝室にある室内窓
2-8.ランドリールームの窓
2-9.洗面所の窓
2-10.キッチンの窓
光の移ろいを感じられる小さな窓
土間や手洗いスペース、キッチンなどには小さな窓があり、細かい光がいろいろなところから入ってくるようになっています。
2-11.浴室の窓(ビューバス)
3.光・風・プライバシーを考えた住まいを実現するために
DIP建築都市設計事務所は、栃木県宇都宮エリアを拠点に「Identityのある住まい」づくりを20年以上にわたり手がけ、これまでに2,300軒の住宅建築に携わってきました。
住まいの印象は、窓の配置やサイズにより大きく変わります。
窓を考えるにあたっては、まずはそこに暮らす家族の光(明るさ)・風・プライバシーに対する意識を共有して、ご家族のための物語を紡ぐところからはじめることが大切だと思います。
住まいづくりについてのご相談は、DIP建築都市設計事務所におまかせください。
●監修
佐山 利光さん
株式会社DIP建築都市設計事務所 代表取締役。 一級建築士。
事務所名DIPの由来は、D(Dream お客様の夢)I(Identity)P(Partner)〜それぞれのお客様の住まいに対する夢を実現するパートナー〜という企業理念による。
建築家の作品ではなく「その人らしい家づくり」を大切にして、常にお客様によりそった住宅・店舗づくりを提案している。
創業以来、住宅および店舗合わせて2,300棟以上の新築・リノベーションプランに「お客様のIdentity」を投影した建築を手がけている。
●ライター
藤江 薫
二級建築士・宅地建物取引士・インテリアコーディネーター。電鉄会社の「住まいと暮らしのコンシェルジュ」として、7年間で1,000組以上の住まいの進路相談を担当。不動産購入・売却・新築・建て替え・リフォーム・住みかえなど、問題解決のために、さまざまな選択肢を提案。セルフビルドの自宅でバードハウスを製作している。