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和室を織り込んだ住まい〜わが家らしい「和室」の取り入れ方〜
2024年02月27日
住まいづくりの際に、子育て世代を中心に「和室や和を感じる空間が欲しい」という要望が増えています。
そこで今回は、DIP建築都市設計事務所代表の佐山利光氏に「和室・和の空間」の取り入れ方について、施工例を中心にお話を伺いました。
目次
1.実現したいのは、どんなスタイルの和室ですか?
一口に和室と言っても、さまざまなスタイルがあります。DIPでは、まずお客様が求めている和室のスタイルをおたずねします。
1-1.和室の建築様式「真・行・草」の特色
和室は、様式的にみると「真・行・草」の3つのスタイルに大別できます。
真の和室は、武家屋敷の書院造りの座敷に代表される建築様式で、格式のあるフォーマルな空間構成です。
床の間、床框、書院、長押などがあり、床の間には、角柱の床柱、畳床、書院、違い棚、長押などで構成されており、それぞれ規定があります。¹
子育て世代のお客様のなかにも
「長男なので、いずれは仏壇を継承するので伝統的な和室がほしい」
「子どもたちに和室のマナーを教えたい。畳の縁や敷居を踏んではいけないことをしっかりと自分の家で伝えたい」
「家庭訪問で先生がいらっしゃるときなど、お客様をお迎えする際に、格式の高い和室にお通ししたい」
という場合は、真の和室でご提案をすることもあります。
行の和室は真と草の中間です。真の和室のルールを少し崩したものとでもいえばいいでしょうか‥
「真・行・草」の考え方は書道などでも使われています。文字には、真書体(楷書体)・行書体・草書体などがあるのと同じような考え方だと思っていただければと思います。
草の和室は、数寄屋造や千利休の草庵茶室に代表される様式です。
下の画像は、DIPで施工した「草」スタイルの和室ですが、丸床柱や、網代天井、竿縁天井を使い、型に縛られない、柔軟で自由度の高い「見立て」を楽しむ空間になっています。
和の建築的な表現方法は本当に様々です。
素材、光、プロポーション、いつも悩みながら楽しみます。
インテリアでよく耳にする和モダンも、大きな捉え方としては「草の空間」と考えることができます。
近年は、厳格な様式のある真の和室は一般住宅では作られる機会が少なくなり、真をややくずした行や草の和室が主流となっています。
DIPのお施主さまは、和モダンを含めて、草の和室を欲しいと考える人がほとんどですが、仏壇や神棚をまつる空間として使う場合など、真に近い行の和室を希望するかたもいらっしゃいます。
DIPでは真・行・草いずれのタイプの和室もご提案いたしますので、ご相談ください。
■DIPの和室 左上アートのある100年住宅右上4つの中庭のある家左下森へひらく平屋右下紫陽花坂の家
1-2.和室をどのように使いたいですか?
DIPでは、具体的な和室の使い道についてもおたずねしています。
これまでには、次のような要望がありました。
- 来客時、親族が遊びに来た時にゲストルームとして使う
- 仏壇や神棚をまつり、祖先を敬う「神聖な特別な空間」「ハレの場」として家庭行事などを行う
- 書道・着付け・茶道など稽古事のために使う
- 掘りごたつスタイルのワークスペースとして使う
- 畳が好き。ごろごろしたり床座ぐらしを楽しみたい
- ホームライブラリーの隣に畳コーナーを設けて、子どもたちに読書を楽しんでほしい
- 子どもたちが昼寝をしたり、おむつを替えるのに便利
- 子どもたちに、敷居や畳の縁は踏んではいけないというルールを教えるため
- 畳廊下にして、畳の足触りを楽しみたい
1-2-1.仏間・神棚など、祖先や神仏を祭る空間として
祖先から子どもたちまで、家族の歴史をたどる特別な空間を作っておきたいと考える人は今も少なくありませんし、その気持ちを大切にしたいと考えております。これも「自分たちらしい住まい」の要素ですね。
お仏壇置き場を床の間の中心に設けた、居住まいを正したくなる格調高い仏間。
障子の組子もDIPでデザインしています。
「先祖代々をお祀りしたこの部屋にいると、不思議に安らぎ落ち着けます」とお施主さま。
ダイナミックな障子組子の割り付けデザインはDIPで行いました。天井は檜の竿縁天井でリズミカルに。
・神棚のある和室
モダンで伸びやかな住まいのなかに設けられた、神棚のある清々しい和室。
1-2-2.書道・着付け・生花などおけいこ事を学ぶ場として
和服の着付を学び資格を取得された奥様のお稽古場として使う和室。将来お教室を開くことも考え、エントランスホールから直接和室にアクセスできるように計画しています。
美しい障子組子の割付けはDIPでデザインしました。
日本の伝統的な文様には、無病息災、子孫繁栄などそれぞれに意味があるので、障子組子についてもお客様のご意向を確認しながら作成しています。
お互いの時間を大切/に過ごす夫婦のフルリノベーション住宅
書道を楽しまれる奥様のためのお稽古場。お父様が普請された当時の見事な梁をリノベーション工事であらわしにしました。上部からの自然採光が心地よい和室。
1-2-3.掘り込み座卓のあるワークスペース・マルチルームとして
陰影に富むワークスペース兼用の予備室。カウンター下の掘り込み部分に足を入れてデスクワークができます。
床座で、足を入れる掘り込みスペースのあるスタディコーナー。
1-2-4.ホームライブラリーに隣接、床座の読書コーナーとして
お施主さまのご家族が図書館で働いているご経験を踏まえ「家族が本を手にしながらくつろげるスペース」として、ホームライブラリーの隣に設けたシンプルな和室。
1-2-5.客間として
床柱は風情のある皮付き桜丸太。網代天井に組子障子、出入口には漆和紙を施した、贅を尽くした美しい和室。希少となった素材と手仕事を慈しむ空間になっています。
紫陽花坂の家は住まい全体を和モダンをテーマにして計画した住まいです。
後述しますが、玄関ドアを開けた瞬間から浴室に至るまで、お施主様のイメージする和モダンを追求した住まいです。
1-2-6.子どもたちに、和室のマナーと文化を伝えたい
「畳の縁は踏んではいけない」などの和室の決まりごと、日本人としての美学を子どもたちにしっかり伝えたいと考えて、しつらえた和室。
住まい全体はパリのアパルトマンのイメージで作っているため、和室への入口は、忍者屋敷の「どんでん返し」のように気配を消した隠し扉になっています。
2. DIPが提案する、和のエレメントの取り入れ方
DIPには「和室は要らないが、住まいのどこかに和を感じる要素を取り入れたい」というご相談も多く寄せられます。
まずは、お客様とお話しながら、畳、木製建具、あらわしの梁など和のインテリアエレメントをバランスよく住まいに取り入れることを心がけています。
2-1.ラグのような感覚で、「畳と床座暮らし」を取り入れる
子どもたちがのびのび過ごせるように、裸足(床座)で過ごしたいというお施主さまの希望で、LDKの中央部に、正方形の縁なし畳をフローリングと高さを揃えて敷き込んでいます。
「広く感じられるのが、畳の良いところ。子どもたちの昼寝や授乳などのスペースとしても使えますし、足を伸ばしてのんびり過ごせる贅沢な空間だと思います」とお施主さま。
2-2.「和の建具」を取り入れる
2-2-1.和のアンティーク建具をリビングに
アンティークの東障子(ガラスの入った木製建具)をキッチンとリビングの間に取り込んだ住宅。和と洋、昔の建具と現在の建材がバランスよくコーディネートされています。
2-2-2.和のアンテーク建具を出入り口に使ったシンプルな和室
和室の出入り口に使った美しい組子の建具は、益子で入手したアンティークの障子をリペアしたもの。簡素でミニマムな美しさの「草の和室」。
2-2-3.千本格子のアンテーク建具を出入り口に使った和室
五尺七寸(1m73cm)と高さを抑えた千本格子の障子の出入り口で茶室のような佇まいに。
2-2-4.千本格子の建具が出迎えるシンメトリーで格式ある玄関
柿渋仕上げの4枚引き戸を開けると、中央にニッチスタイルの飾り棚が登場する来客専用の玄関。建築化照明を使い、アートギャラリーのような格調高い空間に。
2-2.玄関土間をコミュニケーションスペースに
有機肥料を使った農業を営むご夫妻の住まい。日本の農家に古くからある土間を住まいの中に再現しました。
エントランスホールの土間の一部にベンチを小さなテーブルを置いて、ご近所さんが気軽に立ち寄れる場所として活躍しています。真鍮の照明・天井の化粧梁・味わい深い木製家具によって、居心地のいいコミュニケーション空間に。土間と土間を通じたおつきあいも日本ならではのものでしょう。
2-3.リノベーションによって「和の魅力」を引き出す
DIPでは、リノベーション工事の際に、既存住宅の構造材や内装の一部をリペアしながら活用することを提案する場合もあります。『見た目はまるで新築』よりも、『継承した住まいの構造材、経年により味わいを増した素材の魅力』を時代に合わせて引き出すことも、リノベーションの醍醐味ではないでしょうか。
2-3-1. 父親が普請した住まいを受け継いでリノベーション
お互いの時間を大切/に過ごす夫婦のフルリノベーション住宅
大工さんだったお父様が材料一つ一つを吟味して建てた愛着のある実家を住み継いだお施主様ご夫妻の新居。
2階建ての住まいを平屋に減築して、ご夫妻それぞれの趣味空間も充実させた魅力ある住宅に生まれ変わりました。
コスト面だけで考えると、新築の平屋を建てた方が、フルリノベーションよりコストパフォーマンスは良くなります。けれども、愛着のあるご実家を活かすことには、プライスレスな価値があると思います。リノベーションに際しては、事前に詳細な調査を行い、活かせる構造体は必要な補強工事を施しつつ再利用しています。
築50年の住宅のフルリノベーションです。当初は2世帯住宅への建て替えも検討しましたが、敷地も広く、母家はリノベーションによって十分これからも住み続けられることから、
子世帯は庭先に別棟の住宅を建て、親世帯の住まいをフルリノベーションしました。
LDK部分は梁をあらわしにして、明るいオープンキッチンスタイルに改修しましたが、和室部分は既存住宅の良さを大切にしています。
「慣れ親しんだ家が古民家風の別荘になったようで、建築の奥深さを感じています」とお施主さま。
3.和モダンをテーマにした住まい____紫陽花坂の家
紫陽花坂の家は、和モダンをテーマにして、素材やプロポーションや陰影を考えた住まいです。
エントランスホールから和室にいたる大谷石貼りの壁、網代天井の和室、あらわしの梁が力強いLDK、檜の浴室‥。日本ならではの素材と手仕事が散りばめられた、味わいのある邸宅に。
地窓、天然木の框、アンティークの建具とシャンデリアが共存する、上質なエントランスホール。和室の障子越しの照明が心地よく出迎えます。
大谷石貼りの美しい壁が際立つエントランスホール
和室入り口から玄関ホールを振り返ったところ。地窓やスリット窓ごしの自然光とシャンデリア照明の光が交錯した格調高い空間に。
リビングルームから和室、2階への階段を眺めたところ。障子ごしの柔らかな光が印象的。階段脇の浴室への扉はアンティーク建具の逸品。
「ヒノキの壁、十和田石の床をセレクトした浴室。外の景色も相まって旅館や別荘のような非日常感が堪能できます。ただの和風ではつまらないので、随所に無機質な素材を取り入れてモダンな雰囲気に仕上がっているのも魅力です」と、お施主さま
4.わが家らしい「和室・和モダン」を実現するために
DIP建築都市設計事務所は、栃木県宇都宮エリアを拠点に「Identityのある住まい」づくりを20年以上にわたり手がけ、これまでに2,300軒の住宅建築に携わってきました。
ハウスメーカーや、工務店との家づくりにあきたらず、自分たちらしい住まいを素材やディテールまでこだわって作りたいというお施主様もたくさんいらっしゃいます。
今回テーマに取り上げた「和室」「和空間」については、語り尽くせないほど奥深いテーマです。私自身現場で年配の大工さんからいまだに、いろいろと学ぶことがあります。
私たちDIPは、美しい空間をつくるには、和洋いずれの場合においても「光・素材・プロポーション」が大切であると考えています。
和室において光素材プロポーションを突き詰めていくと、私たちの時代や感性にあう「今日的な陰翳礼讃」にたどり着く様にも思います。
「和室が欲しいと思っているが、家族と意見が合わない」「和のテイストのワークスペースが欲しい」「和室は考えていないけれど、畳は欲しい」など、和室や和のインテリアテイストについてのさまざまなご相談も承っております。
自分らしい住まいづくりのご相談は、DIP建築都市設計事務所におまかせください。
●監修
佐山 利光さん
株式会社DIP建築都市設計事務所 代表取締役。 一級建築士。
事務所名DIPの由来は、D(Dream お客様の夢)I(Identity)P(Partner)〜それぞれのお客様の住まいに対する夢を実現するパートナー〜という企業理念による。
建築家の作品ではなく「その人らしい家づくり」を大切にして、常にお客様によりそった住宅・店舗づくりを提案している。
創業以来、住宅および店舗合わせて2,300棟以上の新築・リノベーションプランに「お客様のIdentity」を投影した建築を手がけている。
●ライター
藤江 薫
二級建築士・宅地建物取引士・インテリアコーディネーター。電鉄会社の「住まいと暮らしのコンシェルジュ」として、7年間で1,000組以上の住まいの進路相談を担当。不動産購入・売却・新築・建て替え・リフォーム・住みかえなど、問題解決のために、さまざまな選択肢を提案する。セルフビルドの自宅でバードハウスを製作している。