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住まいを印象づける建具〜DIP流 建具Stylebook〜
2024年04月09日
STホール&ギャラリー
「シンプルなドア」「スタイリッシュな引戸」「重厚な建具」…というように、建具のたたずまいは、住まいの印象を大きく左右します。
既成品からオーダーメイドの造作建具まで、さまざまな選択肢の中から、わが家にふさわしい建具を決めるにはどうすればいいのか、判断に迷うことも少なくありません。
そこで今回は、DIP建築都市設計事務所代表の佐山利光氏に建具の選び方のポイント、実際にDIPで提案した個性豊かなさまざまな建具について、お話を伺いました。
目次
1.住まいにマッチした建具選びのABC
1-1. 内部建具・外部建具・外構建具 3種類のカテゴリー
住宅で使われる建具は、間仕切る場所により
・室内を仕切るのに使う内部建具 室内ドア・引戸・可動壁・障子・襖など
・屋外と室内を仕切る外部建具 玄関ドアや窓ガラスなど
・敷地内と敷地外を仕切る外構建具 門扉など
の3タイプに大別できます。
それぞれ、材質・開閉スタイルなどさまざまなタイプがありますが、今回は、内部建具と住玄関ドアを中心にDIPで実際に製作した建具をご紹介します。
1-2. 建具に求められる機能
内部建具には、断熱・適度な採光・防音・プライバシー確保などの役割が期待されます。
・断熱性能:仕切ることによって、快適にコントロールした温度や湿度を維持できる
・扉の材料・デザインによって、プライバシーを確保しながら適度な採光・通風を確保
・防音
・引き込み戸など建具の種類によっては、ふだんはオープンにして、必要な時のみ空間をし きることもできる
玄関や勝手口などの外部建具の場合は、さらに
・雨や風から室内を守る
・防犯機能 (施錠システムや指紋認証などのスマートドアロックシステム含む)
・プライバシー確保
などの住まいを外部から守る機能も検討が必要となります。
さらに、住まいの高気密高断熱化にともない、内部建具のニーズも大きく変わりました。
従来は、各居室のドアを閉めて冷暖房するのが一般的でしたが、住宅の高気密高断熱化や、全館空調システムの普及ににしたがい、現在は、住宅内部全体が快適な温熱環境を維持できるようになりました。
断熱性の高い外部建具を選び室内の温熱環境をコントロールするシステムを導入することによって、住まいの内部は建具で仕切らなくても快適な室内気候を維持できるようになっています。
内部の建具については、心地よい採光や通風の確保、必要に応じて広々とした空間を緩やかに間仕切ることに軸足を置いて選ぶことが多くなりました。
1-3. 光・素材・プロポーションを大切にした建具デザイン
建具には、機能だけでなく、インテリアやエクステリアの構成要素としての美しさも求められます。DIPでは、建具についても「光・素材・プロポーション」を意識してデザインしています。
たとえば外部建具の玄関ドアでいえば、光という言葉は、昼間であれば、ニッチなど玄関を引き込んだ形で配置することによって生じる陰影や、夕暮れ以降のアプローチまわりの照明プランなども含みます。
素材は、扉本体の素材、ハンドルの素材、蝶番・ヒンジ・ドアチェックの素材選びです。玄関ドアは住まいの第一印象の決め手になるので、工業製品に気に入ったデザインが見当たらない場合、DIPでは、木製、スチール製のオーダーメイド建具のご提案をいたします。
外部建具のプロポーションは、外壁材とドアの材料選び色調、配置などさまざまな要素のバランスを含みます。表札、郵便ポスト、照明器具等を含めて美しいバランスを確認し提案します。詳しくは、本コラム後半のStylebook編をご覧ください。
1-4. オリジナリティを優先するか、機能性を優先するか
DIPでは、ご相談にいらっしゃるお客様が希望する新居のイメージをヒヤリングシートなどで共有しますが、玄関ドアやLDKへの出入り口は「オーダーメイドの造作建具」を希望するお客様も全体の1割程度いらっしゃいます。
あくまでも個人の感想ですが、お話をしていて素材感や質感を大切にされているかた、クラフト感のあるもの、職人さんの手仕事作品をふだんから楽しんでいるかた、住まいを作るなら玄関ドアはオリジナルの1点ものをと考えているかた、DIPの見学会でオーダーメイドの建具に触れて、その魅力を実感された方は、オーダーメイドの造作家具を選ぶようです。
機能と美しさを両立させる建具、天井いっぱいの高さをとるフルハイトのすっきりとした家具など工業製品ならではの用と美を兼ね備えた建具もありますので、お施主様のご意向を踏まえながら、DIPでは幅広い選択肢の中から建具の提案を行います。
下の画像は、鉄と葡萄棚の家の玄関ホールとLDKの建具とプランを整理したものです。
鉄と葡萄棚の家のお施主さまは、素材の質感を大切にした住まいづくりを希望されました。
1玄関ドア、3LDKへのドアは開き戸、2シューズクローゼット4洗面所5キッチンとリビングを仕切る可動壁は引き戸を使っています。
いずれも、無垢材のオリジナルのドアです。ハンドル、引き手、手すりをシンプルなアイアンでまとめ、玄関土間は大谷石で、それぞれの素材の質感を活かした空間を作っています。
4洗面所への引き戸、5キッチンとリビングを仕切る可動壁(引き戸の既製品)はふだんはオープンにして暮らし、来客など引き戸を閉じた場合もキッチンが暗くならないように梨地のガラスを使っています。
- 引き戸か開き戸か?
「引き戸と開き戸、どちらがいいか」については、実際に図面上で検討して、プランや生活動線や、部屋の使い方・家具の配置によって自ずから決まってくるように思います。
コンパクトな住宅の場合は、開き戸が多いとドアが干渉して不便なので引き戸を希望する人も増えています。
建具には引き戸、開き戸の他にも、折れ戸、障子のような引き違い戸、どんでん返しのような回転戸などさまざまなタイプがあります。
打ち合わせが進むと、建具表で住まい全体の建具を俯瞰する機会もありますので、メリハリをつけて、建具のどこかに「わが家らしさ」を出すのも楽しいですね。下の画像は、階段脇の回転する隠し扉を開けた所です。パリのアパルトマンのようなインテリアのLDKから、和室へとどんでん返しの仕掛けで入ります。
子どもも、大人もワクワクする仕掛けがわが家に1つくらい欲しいな、という方におすすめのアイディアです。
1-6. ヴィンテージ建具を加えて「わが家らしさ」を楽しむ
上の画像のパークサイドハウスでは、既製品の建具(1、4、5)と、ヴィンテージ建具をリペアした建具(2、3)をうまく組み合わせてコーディネートしています。素材や質感を重視した建具選びの際に、ヴィンテージ建具を活用するという選択肢もあります。
2.【DIP施工例】住まいを印象づける建具のStylebook
2-1玄関ドア
A.周囲の壁面とシームレスにつながる、木製オリジナルドア
玄関周辺の天井や壁と色調材質を揃えた、木の質感を活かした玄関ドア。ドアを開けると大谷石貼りのエントランスが広がり、木と大谷石のオーガニックな組み合わせが印象的です。
2方向接道の敷地の魅力を活かして、通り抜けできる通路を設けています。自然の陰影が美しいたたずまいの、アプローチです。
B.木目の際立つ杉材のオーダー玄関ドアと、表札・ポスト類のレイアウトもデザインした雨に濡れない玄関
杉板の壁と杉板横貼りの造作玄関ドア。
ティアドロップ型のクロームメッキのレバーハンドル(アンオーガニック)×杉板(オーガニック素材)の組み合わせが美しいですね。
無垢材の玄関ドアといえば米松ピーラー材が人気ですが、マグロでいえば中トロにたとえられるピーラー材と比較すると、杉板はもう少し淡白であっさりとした印象です。
レバーハンドルはユニオン社のティアドロップ型。シンプルですが心地よい感触と美しいフォルムが魅力です。
右側には、玄関灯、表札、インターホンと上下に設けた窓をレイアウト。
お施主さまは、素材や職人さんの手仕事の感触を大切にする方です。
壁仕上げとのコーディネートを考えながら、1つ1つの素材・デザインを吟味して、さりげないのですが、訪問者を引き込むようなたたずまいになりました。
C.アイアンの面格子付き玄関ドアとアイアンの表札、陰影の美しいポーチ灯のコーディネートが優しい玄関
ポーチ灯、アイアン装飾のある玄関ドアと表札のコーディネートのバランスが美しい玄関。
玄関アプローチのアーチも、ステップも、表札もやさしく優雅なカーブを描いています。工業製品の玄関建具ですが、面格子、ドアの引手、扉の色調やデザインなどを選んでカスタマイズしています。
D.RC打ち放しの建物とのコントラストが美しい木製両開きドア
STホール&ギャラリー
RC造の個人邸に隣接してつくられたプライベートの音楽ホールとギャラリーの玄関ドア。打ち放しコンクリートと相性の良い、ピーラー材の両開き戸は、矢羽張りのデザインで、木肌の美しさを活かしたOSUC塗装で仕上げています。(STホール&ギャラリー)
かつては、建具の回りにケーシングを回して、重厚な雰囲気を出していましたが、近年はケーシングや枠を必要最低限に押さえたすっきりとした玄関が増えています。
E.レンガの壁にマッチした、スチール製玄関ドア
レンガと中庭のある家は、ガラス工芸作家であるお施主様の自宅兼アトリエ・ギャラリー。
愛知県三河産のレンガを使った存在感のある外壁と、リズミカルなスチールドアとの組み合わせがリズミカルで、素材の魅力を引き出しています。
どこか懐かしいハンドメイドの外観が、工芸作家の住まいにふさわしい味わいになっていますね。
玄関ドアは、当初スティール製のオーダーメイド建具で検討を進めていましたが、たまたまレンガにマッチする、ヴィンテージのアルミドアとサッシを入手できたので、リペアして使っています。
F.ピーラー塗装+アイアン手すりで手触りの良いオーダーメイド玄関
木目の美しい米松ピーラー材の造作ドア。クラフト感のある鍛鉄の手すりとナチュラルな質感のピーラー材で、心地よい手触りの玄関に、玄関脇のガラスから、店舗内の気配がさりげなく伝わります。思わず扉を開けたくなるデザインですね。
G.アルコーブの中にすっきりとまとめたグレートーンの玄関ドアまわり
アルコーブ状の引き込まれた空間にあるエントランス。玄関ドア、床、壁、天井に至るまで異なる質感のさまざまなグレートーンの建築資材がバランスよく配置されています。
建物から庇を突出させるのではなく、引き込む形のエントランスは雨仕舞もよく、奥ゆかしいたたずまいですね。
H.プライバシーを大切にしたシンプルな玄関ドア
従来は、重厚で格調の高い「家の顔」といった趣の外部建具が主流でしたが、現在は、シンプルで周囲の壁と一体化した印象のもの、さりげなく気配を消したドアを希望するお施主さまもいます。
森と湖の家は、中禅寺湖に面する国立公園の中に立地した住まいで、周囲の環境に溶け込むような静かな佇まいの住まいです。
オーダーメイドのシンプルなスチール製玄関ドアは、壁面とコーディネートしたオリジナルデザインの押し板がポイントに。さりげないデザインですが、ポストやインタホンも含めて
エントランスの壁面全体での「陰影・素材・プロポーション」を大切にしています。
I.スタイリッシュなフルハイトの玄関ドア
高さ2300㎜の工業製品のハイドアの高さに合わせて玄関アプローチの天井高さを設定。既成の玄関ドアを美しく納めました。
J.ガルバ鋼板の外壁にマッチする千本格子引き戸
山を望む家
外壁材のガルバ鋼と外部建具の縦桟が連動したリズミカルな外観。
2-2.エントランスホール
エントランスホールは、玄関ドア、LDKへのドア、シューズインクローゼットへの出入り口
など、さまざまなタイプのドアが集積するスペースです。
鉄の葡萄棚のある家では、エントランスホールに、玄関ドアを含めると4つの建具がありますが、
I.シューズインクローゼットの間にある片引き戸
エントランスホールには、シューズインクローゼットとの間にある引き戸と、リビングルームにつながる開き戸がある。
J.玄関脇にある土間空間への造作片引き戸
友人の集まりやワークショップにも使える土間空間。玄関土間から引き戸を開けると土間リビングに。大谷石を使った足触りのいい床、柔らかな光を通す造作建具などで心地よい空間に。
K.明るさと広がりをもたらす、オリジナルの上吊り引き込み戸
玄関ホールとLDKの間を緩やかに間仕切る木製の装飾格子入り建具。上吊りタイプのため、床に溝が不要ですっきりとした仕上がりに。オリジナル建具の中に、お施主さまの名前のアルファベットが織り込まれています。
L.和から洋へ。縦格子の引き分け戸を開けると一変する、エントランス建具
和の趣ただよう玄関ホールの引き込み戸を開けると、ドラマチックで色彩豊かなLDK空間が広がる住まい。壁紙との建具のコーディネートも抜群で、メリハリのある楽しい空間に。
M.遊び心あふれる、ストライプ柄の造作片引き戸
オーダーメイドの引き戸。リブ加工した木製のドアの凸部分に墨塗料で仕上げた、立体的なストライプ柄で、リズミカルな印象に。玄関土間のデザインと連動しており、エントランスホールのさりげないアクセントに。
2-3.空間の間仕切りに活躍する、上吊り引き分け戸
N.2wayで使える、ヴィンテージステンドグラスの造作上吊り引き分け戸
左右に引き分けて扉をオープンにすると、階段ホールと洋室が1つの空間になり広々と使えます。扉を閉じれば独立した個室に。ヴィンテージのステンドグラスをはめ込み、エイジング塗装をした造作ドアがクラシカルな雰囲気をかもしだします。
2-4.洗面所・クローゼットの建具
O.光を取り入れながらプライバシーを守る造作片引き戸
キッチンに隣接した洗面脱衣室。ふだんはオープンにしてキッチンの通風採光を確保している。光は通すが視線はシャットアウトできる梨地のガラスを使い、扉を閉じてもキッチンへの採光が確保できます。桟のデザインはDIPより提案。
P.洗面脱衣室への霞ガラスの開き戸
洗面脱衣室への開き戸。霞ガラスでプライバシーを確保している。
Q.内側にミラーを取り付けた、ウォークインクローゼットの引き違い戸
寝室とキッチンの間にある、クローゼットドアの内側に姿見をつけた造作建具。
2-5.キッチンとLDを仕切る建具
R.和のヴィンテージ建具で緩やかに仕切ったキッチン
アンティークをリペアした大型の引き戸でリビングとキッチンをゆるやかに仕切っています。キッチンのカウンターの高さから天井いっぱいまで設置して、子どもたちの様子を見守りながら台所仕事ができます。
4.思い描いた住まいを実現するために
DIP建築都市設計事務所は、栃木県宇都宮エリアを拠点に「Identityのある住まい」づくりを手がけ、これまでに2,300軒の住宅建築に携わってきました。
家づくりから派生するQOL(クオリティ・オブ・ライフ)のコーディネートで、暮らす人の心身を満たすことがDIPの目標です。
「何よりも大切にすべきは、ただ生きるのではなく、よく生きること」
「より多く」よりも「より良く」
「物質的な豊かさに満たされた生活」よりも「毎日が充実し、心身が満たされた生活」
を大切にしています。
今回テーマに取り上げた建具は、住まいの使い勝手や印象を大きく左右します。
断熱・防犯・可変性など建具に求められる機能は多様化し、より安全で便利な建具が次々と登場しますが、その一方で機能性のみならず、わが家らしさ、オリジナリティを大切にした素材やデザインの建具が欲しいと考える人もいます。
DIPでは、それぞれのお客さまの気持ちによりそった提案をいたします。
「光・素材・プロポーション」を極めた、自分らしい住まいづくりのご相談は、DIP建築都市設計事務所におまかせください。
- 監修
佐山 利光さん
株式会社DIP建築都市設計事務所 代表取締役。 一級建築士。
事務所名DIPの由来は、D(Dream お客様の夢)I(Identity)P(Partner)〜それぞれのお客様の住まいに対する夢を実現するパートナー〜という企業理念による。
建築家の作品ではなく「その人らしい家づくり」を大切にして、常にお客様によりそった住宅・店舗づくりを提案している。
創業以来、住宅および店舗合わせて2,300棟以上の新築・リノベーションプランに「お客様のIdentity」を投影した建築を手がけている。
- ライター
藤江 薫
二級建築士・宅地建物取引士・インテリアコーディネーター。電鉄会社の「住まいと暮らしのコンシェルジュ」として、7年間で1,000組以上の住まいの進路相談を担当。不動産購入・売却・新築・建て替え・リフォーム・住みかえなど、問題解決のために、さまざまな選択肢を提案する。セルフビルドの自宅でバードハウスを製作している。